2010年東工大ラグビー部リレー日記
もう五月になるというのに
投稿日時:2010/04/23(金) 11:15
こんにちは!三年の清水です。ラグビー部に入ることのメリットはみんなが語ってくれました。 なので僕は、ラグビーの楽しさをより臨場感溢れる形でお伝えしたい、ラグビーってこんなに熱いんだ、こんなに素晴らしいんだ、ということをみなさんに知ってもらいたい一心から、三年前に東工大が国公立大会を優勝したときの決勝戦を秀逸に描いた作品を紹介したいと思います。 ピピィー! 後半開始3分。無情にもトライを示す長い笛の音が鳴り響く。スコアは8-22。東工大フィフティーンの士気が落ちているのは明白であった。そしてそれを一番感じていたのは紛れもなく主将の野口であった。試合前に思い描いていたゲームプランとは大きく異なる展開。東大と東工大の力量はほぼ互角,点差をなるべく離されないような試合運びがしたかった。前半の8分,エースの浅野が貴重な先制トライを奪い,誰もが波に乗れると思った。しかし,キックオフ直後のミスを付け込まれ,そのままトライを返された。一気に流れが東大へ傾き,前半を終えて8-17で9点差のリードを許す状態。ハーフタイムに仕切り直し,巻き返しを図りたい東工大であったが,後半開始早々に痛恨のトライを東大に許してしまった。気落ちする東工大。同様に野口も気落ちしたが,すぐに切り替えた。 「俺は主将だ。今こそ体を張ってチームを引っ張る」 試合が再開し,波に乗った東大が追加点を狙い猛攻を仕掛ける。しかし,そこに野口が立ちはだかった。野口の体は決して大きくない。元々スピードとテクニックを売りとするプレーヤーである。その彼が,自分より一回りもふた回りも大きい東大の巨漢達を相手に強烈なタックルをかまし,完全に止めている。野口には,主将としての気持ちに加え,一プレーヤーとして強い想いがあった。去年の国公立大会の決勝。3連覇のかかった大事な試合であった。しかし,フィールド上に野口の姿はなかった。試合の前日の練習で不幸にも怪我をしてしまい,試合に出ることはなかった。東工大は試合に敗れ,3連覇の夢はついえた。 「俺が,怪我さえしなければ」 今年で4年生の野口にとって,これが最後の国公立大会。去年の悔しさを人一倍感じていた野口のこの大会にかける執念は半端ではない。 『ただ,勝ちたい』 その純粋で強い気持ちが,彼のプレイを普段以上に引き出している。そんな主将のプレイに周りも感化されていった。徐々に東工大のボールキープの時間が長くなる。東工大に流れが傾き始めた。勝っているはずの東大が焦り出す。ここから東工大の怒涛の反撃が始まった。一番の立役者は,快速ウイングの高橋であった。 高橋は2年であり,本格的に試合に出場し始めたのはこの年から。彼は初心者だった。高校では陸上部で,主に短距離専門のランナー。そんな彼がラグビーを大学で始めたのは,団体競技に挑戦したかったから。自分の可能性を試してみたかった。入部した時から,東工大最速のスピードを武器に,即戦力として期待されていた。そして,高橋自身もその期待に応えられる自信はあった。が,現実は甘くなかった。総合的な能力が求められるラグビーにおいて,体の強さ,周りとの連携,状況判断。これらのものが,明らかに欠けていた。デビュー戦では,なにもできずに終わった。だが,試合に出るにつれてラグビーというものを知り始める。いろいろな技術を身につけなければいけないと痛感すると同時に,自分の脚は十分に通用することを確信した。そして,一度抜けたら誰にも追いつかれないスピードを武器に,トライを量産し始める。今日も活躍できる自信はあった。しかし,今日の高橋は動きが悪い。理由は一つのプレイにある。先制トライをとった直後のミスは高橋が起こしたものであったのだ。 「俺のミスがなければ,こんな展開にはならなかった」 ひたすら自分を責めていた。縮こまる高橋。そして,これ以上ミスしてチームの足を引っ張ることはできないという思いが,いつもの積極的なプレイを阻害し,実力を発揮できずにいた。それを察した野口は,高橋に歩み寄る。そして,こう言った。 「お前のミスはチーム全員でカバーする。だから,お前はチームのために走ってくれ」 高橋の中の何かが変わった。持ち前の積極的なプレイを取り戻した。それから幾度となく,高橋のスピードが東大ディフェンスに襲いかかる。後半10分,後半22分と立て続けにトライを奪い,スコアは20-22。点差は2点に縮まった。東工大ペースで試合が進む。ここから試合は一進一退。東工大が必死に攻めるが,東大も意地のディフェンス。残り時間はなくなってきている。このまま東大が逃げ切るか,それとも東工大が逆転できるか。試合終了直前,相手ゴール正面でペナルティキックを得る。入れば3点入り逆転。外せばそこで試合終了。まさに勝敗を決する最後のプレイとなった。蹴るのは4年の柴田。 「あの時と同じだ」 去年の公式戦で,ちょうど同じような展開があった。試合直前,入れば逆転。少し難しい位置ではあったが,練習ではなんなく入れてきた位置だ。しかし,勝敗を左右するというプレッシャーが,ボールをポールから遠ざけ,そのまま試合終了のホイッスル。柴田はその場に伏せ,しばらく立つことができなかった。それから柴田は毎日の練習の最後に,キック練習を欠かすことはなかった。そして今日,神のいたずらか再び柴田にこの場面を用意した。震えが止まらない。どうしても去年のイメージが脳裏から離れなかった。そんな柴田を見てか,同じ4年の野口,井上,浅野,新村が柴田のもとへと歩み寄る。この同期は5人で,他の年代よりも人数が少ない。しかし,人数が少ない分,各々の絆は強い。4年生としてチームの方針や戦略を話し合う際,時としてお互い意見が異なり,喧嘩になることもある。でもそれは,勝ちたいという共通の思いがあり,真剣に考えているからこそであるとお互いにわかっている。それほどお互いを知り尽くしているから,この時柴田がどれほど緊張し,不安で押しつぶれそうになっているのかがわかった。そして彼らは言った。 「お前がどれほど練習してきたかはみんなが知っている。外しても,誰も責めねぇし,責められねぇよ。」 柴田の震えが止まり,顔つきが変わった。少し助走をつけ,チーム全員の想いを乗せたボールに向かって,思いっきり左足を振りぬいた。 『入った』 ボールを蹴った瞬間,確信した。ボールはポールとポールの真ん中を通過した。柴田は,拳を高々と空に突き上げた。去年の自分に打ち克ったのである。同時に試合終了のホイッスル。歓喜の声を上げる東工大。反対にグラウンドにひれ伏し,涙する東大。 よく人に, 「なぜラグビーなんて泥臭いことをやるのか」 「そんなにお前は野蛮で荒っぽいことが好きなのか」 と尋ねられることがある。 確かにラグビーには痛い,辛い,苦しい,部分もある。 しかし,私達は,苦楽を共にした仲間と必死に掴んだ勝利の喜びを分かち合いたいのだ。 「One for all, all for one」 そう,ただそれだけなのである。 みんな、熱くなろう。 そして次は目が切り傷みたいに細い村田君にお願いしたいと思います。 |
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